フォーマルすぎる英語がビジネスの足枷に?
カジュアルな翻訳のコツ

外国人から見た日本人は「とても礼儀が正しく、親切で勤勉」である一方、 ビジネスシーンにおいては「丁寧すぎて内心が見えない」「距離を感じる」「直接的な表現を避けるので誤解を招きやすい」などの意見が聞こえてきます。 翻訳においても、フォーマルすぎる表現は書き手と読み手の間に距離を作り、混乱を招く危険があります。

今回は信頼関係の構築にもつながるカジュアルな翻訳のコツを解説しましょう。

フォーマルすぎるビジネス英語は誤解の原因に?

海外から見て独特に映る日本独自の商習慣に、「敬語」や「上下関係」「気遣い」「本音と建前」が挙げられます。 海外では「相手を敬う」「相手を傷つけない」といった思いやり精神が裏目に出てしまうことも少なくありません。

日本語の文面をそのまま英訳すると、長々しくなったり、よそよそしすぎたり、ときには意図が伝わりづらかったりなど、トラブルの種になってしまうのです。

実際のエピソードをご紹介しましょう。筆者は、日本から出張で帰国した知人Aさんから“I'm very confused, help! ”(ものすごく混乱してるんだけど、助けて!)と相談を受けました。日本との取引が順調に進んでいると思っていたAさん。 しかし、ある日突然、商談は白紙になり、良い関係を築けていたはずの取引先が急に冷たい印象に変貌したと言うのです。 Aさんは全く心当たりがないようでしたが、話を聞くうち、1通のメールが大きな誤解の元であることに気づきました。

【英語のメール原文】
Thank you very much for your time while you were busy last week. After discussing the proposal for the collaboration plan with the company, we come to the conclusion that we would consider it now. We look forward to your continued patronage.

回りくどい表現が多く、直訳された可能性が高いと判断し、自動翻訳サイトを活用して日本語に逆翻訳してみました。元の言語に訳すことで、翻訳の際に生じた誤りをピックアップすることができるからです。

【逆翻訳】
先週はお忙しい中、大変お時間を頂きありがとうございました。協業計画についてのご提案につきましては、会社と話し合った上で、今(回は)検討するという結論に至りました。今後ともご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。

日本の商習慣を反映した丁寧なビジネスメールを同じトーンのまま翻訳してしまったが故に、以下の問題が生じています。

1.文章が長く、意図が埋もれてしまっている
2.誤解を招きがちな曖昧な表現が使用されている
3.表面的で冷たい印象。締めの言葉に将来性を感じない

さて、具体的にどう翻訳すれば良かったのでしょうか?上記3点を踏まえながら見てみましょう。

信頼関係の構築につながるカジュアルなビジネス翻訳の3つのコツ

取引先と良い関係を築き、スムーズにやりとりを行うには、カジュアルな翻訳も必要です。 気をつけたいのは、日常的な会話で用いられるカジュアルな口語ではなく、あくまでビジネスシーンで使われるカジュアル用語に翻訳するということ。 英語には「敬語はない」といわれがちですが、確かに日本の「敬語」に相当するものはないものの、動詞を変えたり言葉を付け足したりすることで丁寧な表現にすることは可能です。 相手によって臨機応変にトーンや言葉のチョイスを調節するのもカジュアル翻訳のコツなのです。

【コツ1:翻訳は短く】

英語圏では、簡潔なメールが好まれます。 あいさつなど、本題にかかわらないものは極力短くするのが鉄則です。

【日本語原文】
先週はお忙しい中、大変お時間を頂きありがとうございました。

【適切な訳文】
・Thank you for your time last week.
・Thank you for taking the time to see me last week.
※より丁寧な訳。時間を割いていただいた、という印象になります。
・Thanks for your time last week!
※お付き合いが長い方のみに対しての訳ですが、ポジティブであり、やりとりしやすい印象を与えます。

日本のビジネスシーンに登場する「お忙しい中」という気遣いを表す表現は、基本的に英訳では必要ありません。 しかし、相手が忙しいのが目に見える場合は、“I realize how busy you are”や“I know you must be busy”などと付け足して気にかけてあげるのも良いでしょう。

【コツ2:誤解を招く曖昧な翻訳は避ける】

日本のビジネスシーンでは、相手の気持ちを損なわぬよう直接的な表現を避ける傾向にあります。 「検討します」も日本では婉曲した断りの表現のひとつですが、そのまま翻訳すると“I'll give it a consideration”となり、断るどころか「前向きに考える」という意味になってしまいます。 この他にも本来は「No」で済むことを「難しい=Difficult」とフォーマルに訳すことで意味がズレるトラブルが頻発しているようです。

【日本語原文】
協業計画についてのご提案につきましては、会社と話し合った上で、今回は 検討するという結論に至りました。

【適切な訳文】
・After discussing with my team about your collaboration proposal, we have decided not to go ahead this time.
・Unfortunately we will decline your offer for collaboration this time.

“Not to go ahead”や“Decline”はともに直接的に断る表現で、誤解が生じることはありません。 また、“this time”と最後に付け足すことで、将来的な可能性を匂わせ、継続的にお付き合いをできるように促しています。

【コツ3:機械のような翻訳を避け、人間味を出す】

毎回決められた表現ばかりを使用していると、機械的な印象を与え、読み手との間に距離を作ってしまいます。 特にメールの締めの部分は重要。 しっかりとカスタマイズして翻訳しましょう。

【日本語原文】
今後ともご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。

【適切な訳文】
・Thank you for your continuous support.
・We look forward to working with you again.
※次回につなげるためにおすすめの訳。
・I look forward to hearing from you again, have a lovely weekend!
※“Enjoy rest of your day” “Have a lovely evening”など、プライベートに触れることでもフレンドリーな印象を与えることができます。

意訳を超えた超訳になることもありますが、メッセージの意図が正確に伝わり、取引の背景を十分に理解していれば問題にはなりません。 逆に信頼関係の構築にもつながると筆者は考えています。

カジュアルな翻訳を心がけると取引先との距離を縮めることができる

大切なのは、文章をかみ砕き、わかりやすく、簡潔にまとめることです。 さらに、相手との関係を意識してできるだけカジュアルな翻訳を心がけると、取引先との距離を縮めることができるでしょう。

こうした自然な翻訳は、無料の自動翻訳よりも有料の高精度な自動翻訳の方が数段長けています。 使うたびにAIが学習し、適宜カスタマイズされていく有料のAI翻訳であれば、「フォーマル」「カジュアル」などを気にすることなく、ビジネスシーンに応じた適切な翻訳をすぐに作成できて便利です。 海外の取引先と良好な関係を築き続けたい方は活用を検討してみてはいかがでしょうか。

筆者:大庭有美(オオバ ユミ)/バイリンガル·ライター
オーストラリア·シドニー在住30年。15年に渡りオーストラリアの日系媒体にて編集ライターおよび翻訳·通訳として活動。グルメ、芸能、インタビュー、育児、イベント、スポーツ関連の記事を主に担当している。