食品ラベル翻訳にAI翻訳は使えるか?
T-4OO VS 無料翻訳で比較検証!

原材料や栄養成分、保存方法などを表示する食品ラベルは、消費者の安全を守るために欠かせないものです。 今では翻訳者の手を借りず、食品ラベル翻訳をAI翻訳に切り替える企業も増えてきましたが、大丈夫なのでしょうか?

そこで今回は、AI翻訳「T-4OO」と無料翻訳を比較し、その精度を検証してみました。

小さな翻訳ミスが大きな騒動へ。誤訳や訳抜けは絶対に許されない分野

「消費者の安全を守る」という重要な役割を果たすラベルに翻訳ミスがあると、罰金や自主回収など、企業の存続を左右する損失につながります。 最悪の場合、消費者の命にかかわってしまいます。 正確な翻訳と「食品表示基準(消費者庁)」に基づいた表示 が不可欠です。

(参照元:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/

例えば、昨年、「アラブ首長国連邦(UAE)でも人気の外国産のビスケットにアルコールが含まれている、ハラールではない!」という衝撃的なニュースが同国のSNSで拡散されました。事実であれば、アルコールが禁じられるイスラム圏では大事件。 ところが、ドバイ政府が調べたところ、ある翻訳ミスが招いた誤解であることがわかったのです。

ビスケットの原材料である「Chocolate Liquor」が「チョコレート·リキュール」、すなわちアルコールと翻訳されていました。料理に詳しい人なら知っているかもしれませんが、「Chocolate Liquor」はカカオ豆の皮を取り除き、磨砕してペースト状にしたもので、アルコールは一切含んでいません。 小さな翻訳ミスが大きな騒動へと発展するのは、文化や言葉が違う海外ならではのことでしょう。

また、シドニーでは2013年、台湾から輸入されたココナッツドリンクを摂取した10歳の男の子が、残念ながらアナフィラキシーショックにより亡くなりました。重度の乳製品アレルギーを持っていたそうで、ココナッツドリンクを飲む前に食品ラベルをチェックしていたようですが、なんと肝心なコンデンスミルクの表示が欠落していたのです。 アレルギーを引き起こすアレルゲンの表示は命にかかわる重要事項。誤訳や訳抜けは絶対に許されません。

他、添加物の表記に複雑なルールが存在するため、誤訳のせいで海外の食品を日本の店舗に並べられなくなってしまう可能性もあります。

このように細心の注意が求められる食品ラベル翻訳。 精度が高いAI翻訳を活用することはもちろん、誤訳や訳抜けを見落とさないためにもプロの翻訳者によるポストエディットを併用し、チェック体制を整備しておくことがリスクヘッジとなります。

 

事例で検証!食品ラベル翻訳におけるAI翻訳の実力

食品ラベル翻訳に自動翻訳を取り入れる際、まずは精度の確認が必要です。AI翻訳「T-4OO」と無料翻訳を使って検証してみましょう。

WEB会議で音声翻訳を活用する場合は、以下のような機能に注目すると良いでしょう。

●ケース1:トマト缶

【原文】
Chopped Tomatoes (65%), Tomato Juice, Tomato Paste (12%), Maize Thickener (1422), Firming Agent (509), Food Acid (330), Antioxidant (300).

【T-4OO】
チョップトマト(65%)、トマトジュース、トマトペースト(12%)、トウモロコシ増粘剤(1422)、 固化剤(509) 、食物酸(330)、酸化防止剤(300)。

【Google翻訳】
刻んだトマト(65%)、トマトジュース、トマトペースト(12%)、トウモロコシ増粘剤(1422)、 ファーミングエージェント(509) 、食品酸(330)、酸化防止剤(300)。

【Webilo翻訳】
刻まれたトマト(65%)、トマトジュース、トマト・ペースト(12%)、トウモロコシ増粘剤(1422)、 安定させているエージェント(509) 、食物酸(330)、酸化防止剤(300)。

Google翻訳とWebilo翻訳は「Firming Agent」を「ファーミングエージェント」「安定させているエージェント」と、それぞれ翻訳しており、いずれも厚生労働省の基準では不適切。 T-4OOは正しく「固化剤」と翻訳しました。

●ケース2:プロテインバー

【原文】
Roasted nuts (peanuts, almonds), isolated soy protein, chicory root extract, glucose syrup, vegetable oil, milk solids, sugar, sugar syrup, maltodextrin, tapioca starch, salt, caramel powder, humectant (glycerin), emulsifiers (sunflower lecithin), natural flavours.

【T-4OO】
焙煎ナッツ(ピーナッツ、アーモンド)、単離大豆タンパク質、チコリ根抽出物、グルコースシロップ、植物油、乳固形分、糖、糖シロップ、マルトデキストリン、タピオカデンプン、塩、カラメル粉末、保湿剤(グリセリン)、乳化剤(ヒマワリレシチン)、天然風味料。

【Google翻訳】
ローストナッツ(ピーナッツ、アーモンド)、分離大豆タンパク質、チコリ根エキス、ブドウ糖シロップ、植物油、乳固形分、砂糖、砂糖シロップ、マルトデキストリン、タピオカ澱粉、塩、キャラメル粉末、保湿剤(グリセリン)、乳化剤(ひまわりレシチン)、 自然な風味。

【Webilo翻訳】
焼かれたナッツ(ピーナッツ、アーモンド)孤立した大豆タンパク質 、チコリ根抽出物、ブドウ糖シロップ、植物油、ミルク固体、砂糖、砂糖シロップ、maltodextrin、タピオカ澱粉、塩、キャラメル粉、湿潤剤(グリセリン)、乳化剤(ヒマワリ・レシチン)、 自然の味

Webilo翻訳やGoogle翻訳では「焼かれたナッツ」「孤立した大豆タンパク質」「自然な風味」「自然の味」といったようにラベルには不適切と言える翻訳が目立ちました。

●ケース3:クッキー

【原文】
Wheat flour, sugar, vegetable oil, cocoa powder, glucose syrup, salt, raising agents (500, 503), emulsifier (soy lecithin), flavour, antioxidants (319, 304, 307b).

【T-4OO】
小麦粉、砂糖、植物油、カカオ粉末、ブドウ糖シロップ、塩、 飼育剤(500、503) 、乳化剤(大豆レシチン)、香料、酸化防止剤(319、304、307b)

【Google翻訳】
小麦粉、砂糖、植物油、ココアパウダー、グルコースシロップ、塩、 起毛剤(500、503) 、乳化剤(大豆レシチン)、香料、抗酸化剤(319、304、307b)。

【Webilo翻訳】
小麦粉、砂糖、植物油、ココア粉、ブドウ糖シロップ、塩、 上昇エージェント(500、503) 、乳化剤(大豆レシチン)、味、酸化防止剤(319、304、307b)

「raising agents」は膨張剤と訳すのが正しいですが、いずれも直訳されて意味がわからない結果に。 ただ、T-4OOなら、「Raising Agents=膨張剤」「Bulking Agent=増量剤」といった対訳を登録したり、専門用語を学習させたりすることができるため、あらかじめ重大な翻訳ミスを防げそうです。

食品ラベル翻訳は、AI翻訳と翻訳者の併用で正確かつ効率的に!

基本的に原材料を並べただけの翻訳は無料翻訳においても、おおよその訳が作成され、誤訳率が低いといえます。しかし、上記の「raising agents」といった添加物の名前を訳す際は、注意しなければなりません。

対訳や用語集を登録できるAI翻訳を活用すれば、正確で統一された翻訳が可能になり、業務も格段に効率化するはずです。

命にかかわる食品ラベル翻訳においては、AI翻訳と翻訳者の併用によって正しい表示を作成しましょう。

筆者:大庭有美(オオバ ユミ)/バイリンガル·ライター
オーストラリア·シドニー在住30年。15年に渡りオーストラリアの日系媒体にて編集ライターおよび翻訳·通訳として活動。グルメ、芸能、インタビュー、育児、イベント、スポーツ関連の記事を主に担当している。