プロが語るビジネスにおける
「意訳」の重要性。直訳との違いは?

直訳か意訳か。常に議論される永遠のテーマです。シチュエーションや用途によって求められる要素は異なりますが、 ビジネスシーンでは「文章の意図や意味を伝える」という翻訳本来の目的に加えて、簡潔で読みやすく、さらには書き手の思いや感情が伝わる「意訳」が重視されます。 より良い「意訳」が業務の速度や精度、信頼度を向上させるのは間違いありません。

そこで今回は、バイリンガルである著者の目線でビジネスシーンにおける「意訳」の重要性を解説します。

直訳ではぎこちない日本語に。
ビジネス上の翻訳で「意訳」が選択されるワケ

「直訳」とは一語一句すべてを忠実に翻訳すること。 ‟This is an apple. ”のようなシンプルな文章なら「これはリンゴです」と直訳すれば問題ありません。また、契約書やマニュアル、専門書は直訳が基本とされます。しかし、直訳では文章が複雑かつ長くなるにつれ、ぎこちない日本語になってしまう傾向に。 これは、文章の構造や語彙が日本語と英語では根本的に違うため、単なる言葉の置き換えだけでは無理が生じるからです。

一方、一語一句にとらわれず、文全体の背景やニュアンスや流れを意識しながら、読みやすい自然な文章にするのが「意訳」です。 ただ、意味をくみ取る際、訳者の主観が入ったり、全体のニュアンスが変わるなど、正確さを損なう危険もはらんでいます。

直訳と意訳、それぞれの利点と欠点を踏まえた上で判断しますが、ビジネス上の翻訳では多くの場合、意訳が選択されます。 なぜなら、言語や文化、ビジネスマナーが異なる海外ビジネスを円滑に進めるにはスムーズなコミュニケーションが不可欠だからです。 意訳という文章補正を通じて、簡潔で読みやすく、理解しやすい文章にする力が必要とされます。

以下、具体例で直訳と意訳を比べてみましょう。

【原文】
We always welcome with open arms, criticisms during team meetings, as through them we find points to improve.

【直訳】
我々はいつもチームミーティングでの批判を両手を広げて歓迎します、私たちはそれを通じて改善点を見つけられるからです。

【意訳】
改善点が見えてくるので、チームミーティングでの批判は大歓迎ですよ。

「チームミーティングでの批判は歓迎します」の意味は、上記の直訳と意訳から理解できますが、直訳文はまわりくどく、まるでロボットが伝えているような印象が否めません。 実際に「(チームのために)批判してみようかな」という気持ちになるのは、人間性が感じられる意訳文ではないでしょうか。 原文通りに並べた直訳からは伝わらない、書き手の思いや感情といった人間性を伝えられるのも意訳の利点です。

意図やニュアンスが正確に伝わる「意訳」の6つのポイント

では下記の文章を、6つのポイントを踏まえながら意訳してみましょう。

【原文】
As global concern about the current COVID-19 outbreak escalates, our priority is to keep everyone safe on our team. Following the guidelines of the government, we have decided to pull out of this year's expo. The decision did not come lightly as we are aware of the many hours of work you have all contributed to this project.

【意訳】
COVID-19の拡大を受け、世界中で懸念が高まる中、我々が最も重要としているのは、チーム全員の安全です。政府のガイドラインを受け、今年のエキスポから撤退することにしました。皆さんがこのプロジェクトに何時間も貢献されたことは承知しているので、今回の決定は軽いものではありませんでした。

【ポイント1:意味を汲み取る】

全体の文章から、書き手が伝えたいメッセージや意図、感情を汲み取りましょう。 ここで役立つのが自動翻訳サイトです。 翻訳ツールを通して大まかな意図をいち早く理解することで、翻訳時間の短縮につながります。

【ポイント2:語順に気をつける】

英語の語順は「主語(S)+動詞(V)+目的語(O)」である一方で、日本語の場合は「主語(S)+目的語(O)+動詞(V)」など、文の成り立ちが異なります。 日本語の語順に合わせて言葉を入れ変えるだけでも、自然な文章を作成することができます。

(例)
【原文】As global concern about the current COVID-19 outbrea escalates
COVID-19の拡大により、世界的な懸念が高まる中

【ポイント3:主語を極力省く】

英語と比べ、日本語は主語がなくても意味が通じる言語です。 主語を極力省くことで、より違和感なく翻訳できます。

(例)
【原文】The decision did not come lightly as we are aware of the many hours of work you have all contributed to this project.
このプロジェクトに何時間も貢献されたことは承知しているので、今回の決定は軽いものではありませんでした。

【ポイント4:シンプルな言葉や一般的な表現を用いる】

わかりやすいシンプルな言葉や一般的な表現を用いることで、文章が読み手により伝わりやすくなります。

(例)
【原文】global concern
「地球全体の懸念」と訳するよりも「世界中の懸念」と訳した方が親しみのある文章に。

【ポイント5:書き手の感情を正しく伝える】

「喜んでいる」「残念でならない」など、書き手の感情を正しく伝えないと、人間関係がこじれる原因にもなってしまいます。

(例)
【原文】our priority
→ 「我々の優先事項」と直訳されがちですが、これではまるで従業員を機械のように扱っている印象に。 「priority(プライオリティ)」を「重要」と意訳することで、上司の「チーム全員の安全を守りたい」という思いが伝わる優れた文章に仕上がります。

【ポイント6:主観が入り込んでないか、オリジナルに沿っているか、チェック】

オリジナルソースと訳文を見比べ、漏れがないか、余計な情報が付け加えられていないか、訳者の主観が入っていないかなどを確認します。

より良い意訳が海外ビジネスを成功に導く

書き手と読み手の架け橋を担う翻訳ですが、直訳か意訳かによって、読み手に伝わる意図や意味、ニュアンスが変わってきます。 ビジネスシーンにおいて意訳を効率的に行うには、自動翻訳を活用するのもおすすめです。 特にAI搭載の有料自動翻訳の中には、複雑な長文や専門用語の翻訳にも対応しているほか、利用すればするほど翻訳性能が向上するものもあります。 より良い意訳が海外ビジネスを成功に導く、ということを肝に銘じておきましょう。

筆者:大庭有美(オオバ ユミ)/バイリンガル·ライター
オーストラリア·シドニー在住30年。15年に渡りオーストラリアの日系媒体にて編集ライターおよび翻訳·通訳として活動。グルメ、芸能、インタビュー、育児、イベント、スポーツ関連の記事を主に担当している。