ワンランク上の英文ビジネス文書を
作成するための自動翻訳活用法

ここ数年の自動翻訳精度の飛躍的な進化は、日本のビジネスパーソンにとっても明るいニュースとなりました。しかし、誤訳やミスを恐れてビジネスで活用することに二の足を踏む人も少なくありません。

実は、自動翻訳の「前」と「後」にひと手間の作業を加えるだけで、驚くほど自然な文章を作成することができます。そこで今回は、質の高い英文ビジネス文書を作成するための自動翻訳活用法について解説します。

自動翻訳の精度を上げる鍵は「プレエディット」にあり

自動翻訳の精度は格段に向上したといわれていますが、 翻訳前の原文が複雑であったり曖昧だったりすると、誤訳やミスが生じる可能性は高くなります。 自動翻訳はあくまで原文を直訳するため、人間のように行間を読んだり、曖昧な表現を解釈することは苦手としており、原文にない情報を訳文に反映することはできません。

ビジネスにおいて自動翻訳を最大限に活用するには、翻訳前に原文を編集して「自動翻訳に誤訳する余地を与えない」ことが必要です。 この手法を翻訳業界では「プレエディット」 と呼びます。これは文字通り、翻訳前に原文の修正や校正を行う編集作業のことで、プレエディットの実施により、人間の翻訳に劣らない自然な訳文が出力されるようになります。それでは、日英翻訳でプレエディットをする際のポイントをご紹介しましょう。

【ポイント1:原文はわかりやすく明確に】

「原文に曖昧さを残さないこと」はプレエディットの基本中の基本です。 日本語は主語や目的語がなくても文脈から推測できるため、しばしば省略されますが、自動翻訳が誤った主語を補ってしまえば誤訳が起きます。

自動翻訳が曖昧な文章の翻訳を苦手としていることに加え、英語は主語や目的語を重視します。 原文の日本語で「誰が」「何が」といった単語が省略されていたら補足しましょう。 これを意識してビジネス文書を作成するだけで、伝えたい情報の主旨が明確になり、訳文の質が向上します。

【ポイント2:文は短く簡潔に】

一つの文章にたくさんの要素を入れると長く複雑に。主語と述語がうまく対応できないほか、内容が交錯して誤訳が生じる要因となります。 一つの文で伝える内容は一つという「一文一義」の原則に従い、長くなりそうな文は二文に分け、簡潔で分かりやすい文に直してください。 単語数はメールならおよそ50文字以内、マニュアルなら20文字以内に抑えると、正しい訳文が出力されるでしょう。

【ポイント3:慣用表現には注意】

ビジネスで使われる慣用表現によって、思わぬ誤訳が起こることがあります。例えば、クライアントに対して 「来月もよろしくお願いします」とメールを送るとします。「よろしくお願いします」という英語にはない慣用表現を使ったことで、無料の自動翻訳では「Thank you again next month」と非常に不自然な訳文が出力されました。

こうしたエラーを回避するためには、日本語独特の慣用表現を避け「自動翻訳が好む文章」に原文を修正しなければなりません。 「よろしくお願いします」には多くの意味合いが含まれますが、ここでは「来月も一緒に仕事をすることを楽しみにしています」などと表現を変えてみましょう。 これで自動翻訳にかけると「I look forward to working with you next month」と意味の通じる訳文が表示されました。

【ポイント4:単語帳機能を活用する】

自動翻訳では、同じ単語でも初出とそれ以外の部分で翻訳結果が異なるなど、表記のゆれが生じることがあります。 これを防ぐためには、頻繁に使う表現や業界の専門用語などをあらかじめ自動翻訳サイトに付随する単語帳に登録しておくことをおすすめします。 用語をあらかじめ登録しておくことで、訳文のブレが減り効率も上がります。

  

翻訳後の「ポストエディット」でさらなる品質向上を目指す!

自動翻訳の精度が上がっているとはいえ、用語の不統一や数字の誤りなど、さまざまなエラーが訳文に潜んでいる可能性も否定できません。こうしたエラーを人間の手で修正する作業を 「ポストエディット」 と呼びます。

ポストエディットと一口に言っても、原文の内容が伝われば良いのか、流暢さや読みやすさまで求めて細かく修正を行うのか、その基準は用途や目的に応じて異なります。 修正作業で時間もコストもかかってしまう事態を避けるためにも、どのレベルまでポストエディットをするのかを決めておきましょう。 以下、簡単にできるポストエディットの方法をご説明します。

【ポイント1:逆翻訳でエラー検出】

誤訳やミスを検出する最も手軽な方法が、一度翻訳した文章を再び自動翻訳にかけて翻訳する「逆翻訳」と呼ばれる手法です。 表示された日本語が原文の意味と合致していれば、英訳にもそれほど大きな誤訳はないと判断できます。 もしエラーが検出されたら、プレエディットの原則に従い、原文の日本語を修正してみましょう。

【ポイント2:高精度な有料自動翻訳を活用】

自動翻訳にも、無料のサイトから精度の高い有料の自動翻訳サービスまで、さまざまな種類があります。同じ日本語の原文を英語に訳しても、翻訳結果にはばらつきが生じるのです。 例えば、プレエディットの【ポイント3】で解説した「来月もよろしくお願いします」という慣用表現を、有料の高精度AI自動翻訳「T-4OO」を活用して翻訳。 無料の自動翻訳ではおかしな訳文が出力されましたが、T-4OOでは「I look forward to working with you next month as well」と、プレエディットの手間なしに自然な訳文が表示されました。

原文内容の分野に対応した高度な自動翻訳サービスを活用することが重要といえるでしょう。

【ポイント3:最終チェックは専門家に】

【ポイント1】で触れた逆翻訳が有効なのは、訳文の意味が大まかに合っていて「意味が通じれば良い」という場合のみです。 社外に提出するような正式なビジネス文書や契約書を翻訳する際は、ポストエディット作業を専門に行うポストエディターや専門家などによる最終チェックを受けるようにしましょう。

ビジネスシーンにおいては、どの自動翻訳サービスを選ぶかが大切

ここまで「プレエディット」と「ポストエディット」について解説してきましたが、 より精度の高い有料の自動翻訳サービスを活用すれば、翻訳にかかる手間を最小限に抑えながら高品質な英文ビジネス文書を作成できることがお分かりいただけたかと思います。 スピードや効率化が重視されるビジネスシーンにおいて一刻も早く正確な翻訳を行うためには、どの自動翻訳サービスを選ぶかがとても大切です。

筆者:小副川晴香/ニュース翻訳者・編集者
東京都出身。立教大学法学部卒業後、大手新聞社で編集業務に携わったのち、2013年よりオーストラリア・シドニーに永住。現地の総合邦字紙で編集者、経済ビジネス情報メディアでオセアニア圏の政治経済ニュースの翻訳・編集・校正などを行う。趣味は語学学習と読書。英語独特の表現をいかに自然な日本語に翻訳するか日々研究中。