【日本翻訳連盟の理事が語る】
AI翻訳がもたらす言語的ハンディキャップを
乗り越える破壊的イノベーションとは?

「2016年に今までの翻訳ビジネスの常識を覆す大事件が起こりました。この破壊的な新技術が、翻訳業界全体に大きな衝撃を与えたのです」

興奮を隠さずに話すのは、日本翻訳連盟理事であり、株式会社ロゼッタの執行役員を務める古谷 祐一氏。

彼が続けたのは 「ロゼッタが開発した翻訳エンジンで翻訳された結果を見たとき、私は破壊的なイノベーションを感じました」 という言葉でした。

現在、世界有数の経済大国でありながら、国際市場では常に言語的なハンディキャップに苦しめられている日本。しかしながら、グローバル化が進む現在、実務レベルのビジネス翻訳の必要性は日に日に増しています。

そんな中、これからのビジネスのカギを握るのがAI翻訳。 「世界が変わる」と確信したと話す古谷氏に、AI翻訳の実用性と将来性について話をしてもらいました。

古谷 祐一/株式会社ロゼッタ アライアンス事業部部長 執行役員

GMOインターネットグループの連結子会社であるGlobal Web株式会社(GMOスピード翻訳株式会社)の代表取締役社長を経て、総合的な翻訳ソリューションを提案するロゼッタの連結会社、Xtra株式会社の代表取締役社長に就任。 2019年、ロゼッタのアライアンス事業部長・執行役員に就任。AI翻訳の限りない可能性を世の中に広めるべく精力的に活動している。2012年より一般社団法人日本翻訳連盟理事、2014年よりアジア太平洋機械翻訳協会監事を務める。

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翻訳業界を震撼させた「ニューラルネットワーク翻訳」というイノベーション

――唐突な質問ですが、近年のAI翻訳の進歩はどのように生まれたのでしょうか?

後で詳しくお話しますが、2016年に今までの翻訳の常識を覆すような大事件が起こりました。 それが、「深層学習をベースにしたニューラルネットワークによる翻訳技術の登場」です。 この新しい技術が、翻訳業界に大きな衝撃を与えました。

その後、ニューラルネットワークによる翻訳技術をベースに独自で開発したロゼッタのエンジンに、私は破壊的なイノベーションを感じました。 人が翻訳したのではないかと思うほどの流暢な翻訳結果を目にしたとき、「世界が変わる」ことを確信しましたね。

――日本翻訳連盟の理事を長年務められている古谷さんが驚かれるほどの衝撃だったのですね。

はい、それは、もう……。そのときのことは鮮明に覚えています。

――具体的にどのようなインパクトがあったのでしょうか?

私は、GMOインターネットグループの連結子会社であるGMOスピード翻訳株式会社で、翻訳に特化したマッチングサービスを運営していました。クラウド化やグローバル化が進む社会の中で、スピード翻訳事業は順調に成長していたのですが、 2016年頃から今まで経験したことがないような売上の下落があったのです。 原因を調べてみると、現在のAI翻訳のベースとなる新技術が誕生していました。

――それが「ニューラルネットワークによる翻訳技術」だったわけですか?

そうです。 「ニューラルネットワークによる翻訳技術」は、まずGoogle社が提供し始めたのですが、Google翻訳の劇的な翻訳精度の向上が売上急下降の原因だったのです。 従来の機械翻訳は統計的機械翻訳(SMT)が主で、翻訳の仕上がりもなんとなく意味が通じるかなというレベル。 しかし、「ニューラルネットワークによる翻訳技術」の登場で機械翻訳の精度が飛躍的に向上したのです。

2016年3月、AIが4勝1敗で囲碁の世界チャンピオンに圧勝するというショッキングなニュースが流れましたよね?翻訳の世界でもAIを搭載した「ニューラルネットワークによる翻訳技術」が破壊的なイノベーションを起こしたのです。 手紙やメールといったカジュアルでフラットな翻訳の領域はGoogleの起こした津波に次々に飲み込まれていきました。

ただ、専門的な知識が必要なビジネス翻訳の分野はまだまだ実用的な領域に達していませんでしたが。

――身をもってAIの波の到来を実感されたんですね。2016年に「ニューラルネットワークによる翻訳技術」が登場して以降、翻訳業界はどのように進化しましたか?

AI翻訳が広がってきているのは事実ですが、AIの翻訳が100%正しいかと言われると必ずしもそうではないため、AIが翻訳した文章や資料を完成させるには、ポストエディットという人による文章補正の作業が必要となります。現在の翻訳業界は少しずつAI翻訳の技術を活用し、人とAIが共存しているような状況ではないかと思っています。

また、機械翻訳エンジンの分野では、「ニューラルネットワークによる翻訳技術」が従来の統計的機械翻訳と比較して飛躍的に精度が向上している事実を認めながらも、一部では統計的機械翻訳のエンジンが残っています。

その理由は、「ニューラルネットワークによる翻訳技術」では、専門のエンジニアを確保するのが難しいからです。そのため、 ニューラルネットワークによる翻訳エンジンを提供している翻訳エンジンメーカーの中には、Google翻訳(API)や国立開発研究法人である情報通信研究機構「NICT」のエンジンをベースにして翻訳エンジンを提供している会社が数多くあります。

――ということは、ニューラルネットワークの技術をベースに自動翻訳エンジンを独自で開発されているのは珍しいことなのでは?

そうです! ニューラルネットワークをベースに翻訳の独自エンジンを開発している、世界的にも数少ない企業がロゼッタです。 「波に飲まれる側ではなく、波を作る側になりたい」と考えていた私は、ロゼッタのAI翻訳と出会い、その事業の可能性を強く感じました。

Google翻訳もGNMT以降、翻訳精度が向上したことは確かですが、ロゼッタはとことん専門性にこだわった翻訳エンジンのため、実務レベルで使える自動翻訳です。

私はそのエンジンに触れれば触れるほど惚れ込んでしまいました。「これほど、流暢に訳すAI翻訳が存在するのか!」と。

「ロゼッタのAI翻訳は世界を変えられる!」 そう確信したのです。

 

社内のあらゆる翻訳業務をAI翻訳が行えば、もっとグローバルに勝負できる

――ちなみに、独自でニューラルネットワークをベースに翻訳エンジンを開発している会社はどれぐらいあるのでしょうか?

国内では、国立開発研究法人である情報通信研究機構「NICT」、当該エンジンをベースにカスタマイズしてエンジンを提供している企業が数社存在しますが、完全内製の自社開発のエンジンで実務レベルに達しているのはロゼッタくらいだと思います。 世界に広げてみても、数えるほどでしょう。

――それはすごい!そんなロゼッタのAI翻訳はどういった場面で活用されているのでしょうか?

現在の翻訳市場は約2,800億円。これは国内企業が翻訳会社に外注する年間額の合計です。 しかし、ロゼッタのAI翻訳T-4OOは、この数字には含まれない「社内翻訳」という新しい市場を生み出しています。

大手企業では海外取引も多く、社内の翻訳業務がつきものですが、外注するほどではないという翻訳が少なくありません。Google翻訳をも便利なツールですが、毎回同じ間違いを繰り返したり、セキュリティ面に不安が残ります。 そうした場面において学習機能があり、セキュリティ面においても優れたT-4OOはマーケットに評価されています。

――ツール自体が学習してくれるのはありがたいですね。

AI翻訳の学習機能は、個々のビジネスの現場で非常に有益です。 私の知人の「金さん」は、Googleで“Moneyさん”といつも誤訳されていて(笑)ビジネスにおいて、こうした不具合は実に非効率。例えば、製薬会社は開発した新薬に独自の名前を付けますが、何十個もある薬の名前を翻訳のたびに間違えられてしまっては、とても実用的とは言えません。

その点、T-4OOでは個々の企業や各事業部が使用する単語を学習させられるため、同じ間違いを繰り返すことがないのです。

いよいよAI翻訳が社会のスタンダードになっていく!

――最後に、ますます楽しみなAI翻訳の今後について展望をお願いします!

T-4OOの名の由来は“Translation for 御社 Only”。 使えば使うほどカスタマイズが可能な自動翻訳というのがコンセプトです。 社内のあらゆる翻訳をAI翻訳が行えば、日本企業はさらにグローバルで勝負ができます。 AI翻訳は日本企業のクロスボーダーに欠かせないインフラになるでしょう。

『我が国を言語的ハンディキャップの呪縛から解放する』というのがロゼッタの理念。今後、ロゼッタは、より細かいコミュニケーションに対応できるようにT-4OOの専門性に磨きをかけ、最終的にはシンギュラリティ、つまり人の手を介さずに完結できるAI翻訳を目指しています。

次世代のエンジンが実現すれば、スマートグラスやモバイル機器と関連付けることで別次元のコミュニケ―ションが生まれるはず。 「VRのスマートグラスを掛けると、スーパーの商品が瞬時に各国語に翻訳される」。そんなことも間もなく現実になります。

将来的には病院の受付や郵便局、市役所など、さまざまなところでの活用が見込まれます。 AI翻訳の発展で世界のビジネスはダイナミックに変わっていくことでしょう。

――AI翻訳が社会のスタンダードになるのもそう遠くないかもしれませんね!本日は、ありがとうございました!

インタビューを終えて。コストカットと効率化の両面から翻訳業務の見直しを!

コロナ禍を経て、コストカットと効率化の両面から業務の見直しが急がれる今、翻訳業務にもAIの波が押し寄せています。

マニュアルや定型文、契約書といった英文はAI翻訳が最も得意とする分野です。 社内翻訳を社員が行う際の時間的負担や、翻訳を外注した際の経済的負担を鑑みても、AI翻訳を社内に取り入れるメリットは大きいといえるでしょう。

筆者・聞き手:林カオリ/ライター・編集者
大手広告制作会社、編集プロダクションにてコピーライター、編集者、記者として活動した後、オーストラリアに渡航。15年間の海外生活中は、日豪両国の媒体にて多彩な執筆活動を行う。2012年に帰国。現在は国際性を生かした海外関連記事を中心に執筆活動を行うとともに、編集・出版の合同会社パブリスプラスの代表として活動する。知的財産管理技能士3級。