ビジネス英語力を向上させる!
自動翻訳を活用した英語学習法

自動翻訳のビジネス活用が本格化するにつれ、必要とされる英語力も変わってきています。 実は日常的に自動翻訳を活用することが、ビジネス英語力の向上につながることをご存知でしょうか?

今回は、自動翻訳を活用した英語学習法を解説します。

自動翻訳さえあれば、英語学習は不要に?

これまでの自動翻訳といえば、誤訳や不自然な訳が目立ち、ビジネスシーンでは使えないというのが定説でした。しかし近年、人工知能(AI)の発達により、米Googleをはじめとする自動翻訳サービスの多くは、翻訳技術を従来の「統計機械翻訳(SMT)」から深層学習ベースの「ニューラル機械翻訳(NMT)」に切り替えました。

この技術革新によって、英語が瞬時に違和感の少ない日本語に翻訳され、少し修正するだけで、ビジネスでも使えるレベルにまで達したのです。 これに伴い、企業のマニュアルやビジネス文書の翻訳でも、有料の高精度な自動翻訳サービスを活用する動きが広がっています。

こうした背景から「自動翻訳さえあれば英語学習はもはや必要ないのでは?」と考える人もいるかもしれません。 その答えのカギを握るのが「自動翻訳の精度」と「ビジネス英語力」です。

精度が飛躍的に向上しているとはいえ、自動翻訳が100%正しい訳を出力するとは限りません。行間を読んだり、意味や文脈に基づいた解釈をしたりする人間とは違い、自動翻訳は膨大なデータを参照したうえで、単語や文単位でデータ分析をして訳文を生成するため、訳が外れることもあります。 人間による最終チェックは必要なのです。

ここで、自動翻訳にまつわる笑えないエピソードをご紹介しましょう。日本経済新聞は昨年5月、訪日外国人向けの観光案内版やホームページで見つかった自動翻訳の誤訳を記事にまとめました。 その中には「小人」を「dwarf(こびと)」、「遺失物センター」を「Forgotten center(忘れられたセンター)」などの誤訳例が掲載されました。 無料の自動翻訳サービスや翻訳ソフトに頼り、専門家のチェックを受けなかったことに加え、担当者も誤訳に気付かなかったことが原因だったようです。

ビジネスにおいて、こうしたエピソードは笑って済まされる問題ではありません。誤訳によって交渉や商談が決裂しても、責任を負うのは自動翻訳ではなく人間ですし、自動翻訳が正しいかを判断できるのも人間です。 だからこそ、自動翻訳のエラーを見つけ、正しく修正するだけのビジネス英語力が必要なのです。

自動翻訳のエラーを修正する「ポストエディット」がビジネス英語力を高める

では、ビジネス英語力はどの程度必要なのでしょうか。 結論から言えば、誤訳やミスを検出するだけの確かな文法力と語彙力、そして高度な読解力は必須でしょう。 なぜなら、全体の構成を把握したり、曖昧な部分を調べたりする人間の翻訳と違い、自動翻訳には用語や語尾の不統一から、数字・固有名詞・慣用表現の誤訳に至るまで、さまざまなエラーが潜んでいる可能性があるからです。中には、表現があまりになめらかで自然だったために、誤訳に全く気付かないでスルーしてしまうケースもあります。 こうしたエラーを修正する「ポストエディット」と呼ばれる作業が、自動翻訳の活用には欠かせません。

※合わせて読みたい記事:ワンランク上の英文ビジネス文書を作成するための自動翻訳活用法

「自分にはそんな英語力はない」といった心配は無用です。多くの日本人は、中学・高校で英語を勉強していますし、一部の人は大学でもかなりの時間を英語学習に割いています。 すでに英語力の土台ともいえる基礎的な文法力、語彙力、読解力は持っているのです。

ポストエディットは地道な作業ですが、自動翻訳のエラーを修正する訓練は英語力・日本語力の底上げにつながります。 以下、ポストエディットを通してできる英語学習法を見ていきましょう。

【学習法1:下訳の修正で表現力・編集力アップ】

ビジネス文書を一から翻訳すると時間がかかります。 効率化を図るために自動翻訳に「下訳」と呼ばれる大まかな原稿作成を任せ、その下訳に修正を加えてリライトをしていきます。 つまり、翻訳は機械に任せ、それを参考にしてより良い訳文を人間が作り上げる分業です。 自動翻訳の誤訳やミスを検出する国語力や基礎的なビジネス英語力が必要ですが、リライトの訓練を積むことで英語と日本語の表現力・編集力アップが期待できます。 自動翻訳を上手に活用することは、語学力だけではなく、生産性の向上にもつながるでしょう。

【学習法2:表現の言い換えで語彙力アップ】

自動翻訳は原文を直訳するため、ビジネスの交渉場面において「配慮」はできません。 例えば、クライアントに頼みごとをする際、「手伝っていただけますか?」と伝えるとしましょう。自動翻訳サイトを使ったところ、‟Can you help me? ”と表示されましたが、これは友人に「ちょっと手伝って!」と頼むぐらいのニュアンスで、ビジネスシーンには適していません。 こうした訳文が表示されたら、“Would it be possible for you to help me? ” “It would be great if you could offer me your assistance. ”など文脈やシチュエーションに応じた表現に修正しましょう。 自動翻訳にこうした配慮は望めないため、謝罪メールなのに命令口調だったり、交渉場面で上から目線だったりすることは十分に考えられます。 場面ごとに適切な表現を使い分ける訓練は、語彙力を高めてくれます。

【注意点:有料の自動翻訳サイトを活用しよう】

ここで一つ注意点があります。上記の英語学習法は、あくまで訳文の意味がある程度通じていることを前提としています。 無料の自動翻訳の多くは専門分野や専門用語に対応していないため、修正に時間がかかり本末転倒といったこともあり得ます。 自動翻訳を活用した英語学習を行う際には、幅広い専門分野に対応した高精度な有料自動翻訳を使うことをおすすめします。

高精度な自動翻訳を活用してビジネス英語に磨きをかけよう!

自動翻訳の進化により、ポストエディットという新しい分野が生まれました。文法ミスの訂正や単語の穴埋め、長文読解問題など「受験にしか使わないのでは?」と思われてきた勉強が非常に役に立つことがご理解いただけたと思います。

自動翻訳の精度は今後も益々向上すると考えられますが、それでも最終チェックを行うのは人間です。 高精度な有料の自動翻訳サイトをフル活用することで、ビジネス英語力にも磨きをかけていきましょう。

筆者:小副川晴香/ニュース翻訳者・編集者
東京都出身。立教大学法学部卒業後、大手新聞社で編集業務に携わったのち、2013年よりオーストラリア・シドニーに永住。現地の総合邦字紙で編集者、経済ビジネス情報メディアでオセアニア圏の政治経済ニュースの翻訳・編集・校正などを行う。趣味は語学学習と読書。英語独特の表現をいかに自然な日本語に翻訳するか日々研究中。