海外赴任経験者に聞いた!
ビジネスシーンで困った翻訳のトラブル

グローバル化が進む中、ビジネスで英語を使う場面が増えてきたと実感する人も多いのではないでしょうか。それに伴い、無料の自動翻訳サイトや翻訳会社を利用したことがある人もいるでしょう。

しかし、翻訳に関する基礎知識がないと、自動翻訳の誤訳に気付かなかったり、クライアントとの間にコミュニケーションの齟齬が生じたりと、思わぬトラブルを招く可能性があります。 今回は商社やIT企業などに勤める4人の海外赴任経験者に「ビジネスシーンで困った翻訳のトラブル」を聞いてみました。実際に起こったトラブルと、その対処法を解説します。

ビジネスを混乱させてしまう!日→英翻訳のトラブル

【ケース1:分担作業で翻訳品質がバラバラ】

商社に勤めるAさんのチームは、日本語の文書を急遽英語に翻訳しなければなりませんでした。納期はさし迫っており、外部の翻訳者に依頼している時間はありません。 そこで、チーム内で手分けして翻訳することに。「専門用語は社内共通の用語を使用する」という決まり以外、翻訳に関する細かい指定がないまま作業は進められました。 しかし、各人から提出された訳文は、専門用語以外の単語のほか、トーンや書き方にも違いが見られ、非常に読みにくい文書となってしまったのです。

用語や言い回しの統一ができないことは、複数人で翻訳する場合のリスクのひとつと言えるでしょう。 人によって文体が違うため、表現方法にばらつきが生じるのは仕方がないことですが、項目ごとに文体が違う場合、相手先の信頼を失う原因にもなりかねません。 複数人で分担して翻訳をする際は、専門用語以外にも単語や文体に関する用語集を用意し、全員で共有する必要があります。

【ケース2:ニュアンスの違いでクレームに】

IT企業に勤める技術者のBさんは、海外企業を支援するプロジェクトを担当することになりました。 Bさんは、業務フローの中に「日本側の技術チームはこの案に太鼓判を押しますよ」という意味を込め「承認」というプロセスを追加しました。 しかし、承認を「approve」と直訳してしまったことで、相手先からは「日本側に承認権限はないはずだ!」とクレームが来てしまったのです。 その後、許可するという意味合いが強い「approve」を、支持するというニュアンスを持つ「endorse」という単語に置き換えたことで、事なきを得ました。

社内用語を直訳したり、業界用語の「カタカナ言葉」や「和製英語」などをそのまま使ったりした場合、単語の意味をめぐってクライアントとの間で食い違いが生じ、今回のようなトラブルの原因となってしまうことがあります。 こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、社内用語や業界用語などを翻訳する際は、本来の英単語が持つ正しい意味を事前に理解しておかなければなりません。

※合わせて読みたい記事:海外で通じない!ビジネスで使われる和製英語を正しく翻訳!

稚拙な訳文で時間も手間も二倍に……。英→日翻訳トラブル

【ケース3:自動翻訳サイトの過信で解釈不能に】

メーカーに勤めるCさんのチームは、海外企業と取引を行ううえで、日常的に英語を使っていました。 しかし、ある現地のクライアントは「日本人には日本語を使わなくては」という気遣いから、英語のメールをわざわざ無料の自動翻訳サイトを使い、日本語に変換して送ってきたのです。 ただ、その優しさに感動するのもつかの間、「書かれた日本語がさっぱりわからない」という事態が起こりました。 Cさんはそのメールを自動翻訳サイトで再び英語に直しましたが解読できず、結局クライアントに原文を送ってもらうことになり、時間も手間もかかってしまったのです。

気遣いが仇となってしまいましたが、これは無料の自動翻訳サイトの能力を過信してしまったゆえのトラブルでしょう。 自動翻訳は近年、飛躍的に精度が向上していますが、専門用語や口語表現、細かなニュアンスなどの翻訳を苦手としているため、まだまだ誤訳が多い印象を受けます。 また、無料のサイトでは情報漏洩といった安全性も懸念されることから、ビジネス文書を扱う場合はプロの翻訳者より精度の高い有料自動翻訳サイトを使用することをおすすめします。

※合わせて読みたい記事:無料自動翻訳サイトは危険?ビジネスで誤解を生まない活用時の注意点

【ケース4:翻訳のアウトソーシングで失敗】

テレビ制作会社でディレクターを務めるDさんは、英語のドキュメンタリー映像を日本語に直す必要に迫られました。 翻訳にかけるコストを少しでも抑えようと、Dさんはインターネットを駆使し、単価の安いインドの翻訳会社を見つけます。 ただ、この翻訳会社は、IT分野には強いものの映像翻訳の実績はありませんでした。 とはいえ、「安いことに越したことはない」「翻訳なんてどの会社を使っても同じ」と、コスト重視のDさんはこの会社に翻訳を依頼しました。 納品された訳文は大まかには合っていたものの、細かな言い回しや表現の部分で複数の誤訳が。 Dさんはすぐに修正を依頼しましたが、再度納品された訳文も十分に満足できる仕上がりではなかったそうです。

これは、翻訳者が日本語の細かいニュアンスを理解していなかったことに加え、Dさんが目先の安さに気を取られるあまりに映像分野に特化した翻訳会社に依頼しなかったことや、原文と訳文を照合し、原文が正確に訳されているか確認する翻訳チェッカーを通さなかったことなどが誤訳の要因となりました。 「翻訳」と一口に言っても、翻訳会社や翻訳者それぞれに専門分野があります。 このようなトラブルを回避するためにも、依頼する翻訳会社を吟味することは非常に重要なのです。

ビジネスシーンで無料サイトに頼り過ぎるとトラブルの原因に……

翻訳とは「目の前にある原文を直訳することだけではない」ということが、ご理解いただけたと思います。 ただ近年は、その手軽さから無料の自動翻訳サイトを活用している人が少なくないのも事実です。 もちろん、単に原文の意味を把握するためだけなら無料サイトの利用は効率的ですが、ビジネスシーンで無料サイトに頼り過ぎるのはトラブルの原因となるため、推奨できません。

最近では、人工知能(AI)を駆使したプロ翻訳者レベルの自動翻訳サービスも台頭してきています。 今回ご紹介したケース1~4のような翻訳のバラつきや、専門分野の翻訳といったトラブルを防ぐ手段にもなりますし、時間とコスト削減のためにも、最新の有料自動翻訳サイトを上手に活用していくのも良いでしょう。

筆者:小副川晴香/ニュース翻訳者・編集者
東京都出身。立教大学法学部卒業後、大手新聞社で編集業務に携わったのち、2013年よりオーストラリア・シドニーに永住。現地の総合邦字紙で編集者、経済ビジネス情報メディアでオセアニア圏の政治経済ニュースの翻訳・編集・校正などを行う。趣味は語学学習と読書。英語独特の表現をいかに自然な日本語に翻訳するか日々研究中。